血管外科の治療
1.下肢動脈閉塞症に対するバイパス治療
重症虚血肢に対する血行再建は血管内治療だけでは難しい!
-下肢切断を免れるにはバイパス術が有効-
重症虚血肢 (CLI: critical limb ischemia):”慢性動脈閉塞により安静時疼痛、潰瘍壊死を形成し、血行再建なしでは下肢組織の維持や疼痛の解除が行えない状態”
足部への速やかで十分量の血流供給が求められる状態です。
閉塞性動脈硬化症、バージャー病、膠原病などで発症しますが、最近のCLI患者さんは糖尿病が60-80%を占め、腎不全、虚血性心疾患をそれぞれ50%、脳血管疾患25%を併存するハイリスク患者群のため、低侵襲な血管内治療が初期治療として選択される機会が増えています。しかしながら血管内治療では潰瘍治癒が得られない、すぐ再発する、あるいはかえって悪化する場合があり、いたずらに血管内治療にこだわると悪化して下肢切断となっている例が多くあります。初期治療法の選択は極めて重要で、当院では血管内治療とbypass術の両方を行うことが可能で、下肢切断を宣告された多くの方を救肢しています。
【CLIの動脈病変部位の特徴】
糖尿病性動脈硬化症は下腿に好発し動脈石灰化を伴うことが特徴ですが腎不全も膝下動脈硬化病変進行の強い増悪因子です。
当科でのCLI治療94例の患者背景は糖尿病68%、透析43%であり78%に下腿動脈病変があり、多領域(骨盤内・大腿部・下腿部の複合)病変が70%を越えています。
当科でのCLI治療94例の患者背景は糖尿病68%、透析43%であり78%に下腿動脈病変があり、多領域(骨盤内・大腿部・下腿部の複合)病変が70%を越えています。
2.カテーテル治療か?バイパス術か?
ー血行再建法の選択・血管外科医の視点ー
それぞれの治療法の利点を生かすためには双方の治療成績を学び活用する必要があり血管外科医の一般的な考えは、『カテーテル治療は低侵襲であり繰り返しての治療が可能だが、潰瘍治癒に十分な血流回復が得られないことが多く再狭窄率も高い。限局性病変にはよい適応だが、CLIは下腿動脈広範囲病変がほとんどであり適応となる症例は少ない』と考えています。 |
“カテーテル治療が上手くいかなくなったらバイパスへ” という方針の問題は、
過剰なカテーテル治療により末梢塞栓や側副血管閉塞をきたし一気に状態を悪化させ、救肢に間に合う貴重な時間と末梢血管を失うことにあります。たとえ1回目の手技が成功したとしても再狭窄率が高く、再発時には初回と同じ悩みを負うことになり、複数回の血管内治療は医療経済的にも難があります。一方バイパスは侵襲性こそ大きいものの成功率は高く豊富な血流供給により劇的に症状回復へと向かい耐久性も高いのです。
過剰なカテーテル治療により末梢塞栓や側副血管閉塞をきたし一気に状態を悪化させ、救肢に間に合う貴重な時間と末梢血管を失うことにあります。たとえ1回目の手技が成功したとしても再狭窄率が高く、再発時には初回と同じ悩みを負うことになり、複数回の血管内治療は医療経済的にも難があります。一方バイパスは侵襲性こそ大きいものの成功率は高く豊富な血流供給により劇的に症状回復へと向かい耐久性も高いのです。
血管外科では患者さんが希望される限り救肢を目指した治療を行います。
血管内治療がダメならバイパスではなく、早い時期にご相談下さい。
血管内治療がダメならバイパスではなく、早い時期にご相談下さい。
3.外科的血行再建術
1)中枢病変の治療
腸骨動脈病変に対するカテーテル治療成績は良好ですが、下肢血行の要所である総大腿動脈へのステント留置は禁忌であり、この領域の高度病変には血栓内膜摘除(TEA: thromboendarterectomy)が有用です. バイパスへの流入路としての役割だけではなく大腿深動脈の血流を確保することにより下肢虚血重症度を軽減することができます。浅大腿動脈カテーテル治療は比較的短い病変に対しては良い適応で、静脈グラフト温存と短いバイパスの良好な開存性を期待して浅大腿動脈カテーテル治療 + 膝窩−足部動脈バイパスによるハイブリッド治療が有用です。最近使用可能となったステントグラフト(ViabahnR)により長い閉塞病変にも治療が可能となりましたが、注意すべき点は浅大腿動脈起始部や膝窩動脈に狭窄病変があると信頼性のある開存を期待できないため、グラフトに用いる静脈の長さに余裕がある場合には総大腿動脈から末梢へのバイパスを考慮します。
2)さまざまなバイパス術
3)静脈グラフト
小口径領域のバイパスでは自家静脈以外に長期開存を期待できる代用血管は現時点で存在しないので、大伏在静脈を第一選択としたin situまたはreversed、non-reversed法で自家静脈を用います。術前エコー検査で四肢静脈の径を計測し利用可能かどうか判定しておき、術中エコーでマーキングを行います。グラフト開存率に最も影響を与える因子は静脈径であり、静脈径3.5mm以上で1本の大伏在静脈でバイパスし得た例では、30日以内の閉塞率1.7%、1年2次開存率90%、5年開存率85%です。
4)末梢吻合部位の選定
末梢吻合部は足部への流れが最も良好でかつ病変のない動脈を選択します。
前・後脛骨動脈、足背動脈が最も多く、術前造影CTで動脈が描出されなくても、術中血管造影によりほとんどの例で足部動脈が描出されます。透析例であっても足関節 付近には石灰化の少ない吻合可能部位を探し出せることが多く、万一吻合可能動脈が見当たらなくても、エコー・ドップラー音を頼りに内側・外側足底動脈や足背動脈〜中足動脈まで捜索範囲を広げると病変の軽微な動脈が存在することがあります。
前・後脛骨動脈、足背動脈が最も多く、術前造影CTで動脈が描出されなくても、術中血管造影によりほとんどの例で足部動脈が描出されます。透析例であっても足関節 付近には石灰化の少ない吻合可能部位を探し出せることが多く、万一吻合可能動脈が見当たらなくても、エコー・ドップラー音を頼りに内側・外側足底動脈や足背動脈〜中足動脈まで捜索範囲を広げると病変の軽微な動脈が存在することがあります。
5)術中グラフト血流評価
吻合終了後血管造影検査を行い、吻合部・グラフト狭窄、足部末梢血管を確認します。グラフト血流量を測定し20ml/min以下の場合は早期閉塞の可能性があるため静脈グラフトの分枝からPIカテーテル(27G)を挿入し、血管拡張薬の持続グラフト注入を行います。
6)創管理
感染を伴う壊疽の場合、足部筋膜下への進展を最小限にとどめることが重要で、足背/足底動脈へのバイパスが不可能となるのみでなく前足部を越えた切断では大きな組織欠損となり骨が大きく露出するため筋皮弁が必要となり治癒までに長期間を要します。足趾壊死から前足部に発赤を生じた場合、MRI検査を参考として足趾切断とデブリドマンを急ぐ必要があります。術前合併症精査を平行して行い血行再建を可能な限り早期に計画します。血行再建後は創洗浄とカデックス軟膏により感染の消退を図り、陰圧吸引治療、FGFスプレーを使用し肉芽形成を待ちます。最も流れが良い足部動脈へのバイパスによりほとんどの例で潰瘍の改善を得ますが、糖尿病・透析歴が長い例で治癒遅延となることがあります。術中造影で足部血流が乏しく術中グラフト流量が少なかった場合、術後皮膚灌流圧検査、エコー検査などにより創治癒可能な血流量が確保出来ているか評価し、追加血行再建も考慮します。骨髄炎合併例では創表面閉鎖後1−2週間後に感染・炎症が再燃してくるので注意深い観察が最後まで必要です。
7)おわりに
糖尿病、透析、膠原病、バージャー病などにより足壊死となった多数の患者さんが下肢切断をされています。下肢動脈バイパス手術により助かる可能性がありますので、歩く意欲が失われていない方は切断前に是非ご相談下さい。下肢末梢動脈へのバイパス術が可能な血管外科医がいる全国でも有数の施設です。経験豊富なスタッフが揃い、血管内治療、バイパス術、創管理を総合的に行うことが可能です。
下肢動脈閉塞の初期病変である間歇性跛行に対する薬物治療や動脈硬化進行予防に対する指導、内科的治療も行っておりますので、「最近、歩くとすぐ疲れて休んでしまう」「靴擦れの足指の傷が治らない」など下肢血行障害に起因する症状がある方は、お気軽にご相談下さい。
下肢動脈閉塞の初期病変である間歇性跛行に対する薬物治療や動脈硬化進行予防に対する指導、内科的治療も行っておりますので、「最近、歩くとすぐ疲れて休んでしまう」「靴擦れの足指の傷が治らない」など下肢血行障害に起因する症状がある方は、お気軽にご相談下さい。
2.腹部大動脈瘤に対する治療
腹部大動脈瘤は動脈の変性(主に動脈硬化)により拡大し4-5cmを越えると破裂する可能性が高まり手術治療が必要となる疾患です. 破裂するまで症状がないため、たまたま検査されたCT、エコー検査などで見つかることが多く、全国で年間約800例(手術例全体の約10%)は破裂してから手術が行われています。手術死亡率は、破裂例30-50%、待機例1.9%と明らかに破裂例は不良であり、早期発見と適切な手術時期の決定が重要な疾患です。
【手術適応】
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【手術方法の選択】
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注:原則であり相談により決定します
Qestion ! : open surgery vs EVARどちらの治療が優れている?
- open surgeryは腹部を大きく切開して動脈瘤を切開し人工血管で置換する手術です。侵襲が大きく肺炎、腸閉塞などの合併症を生じると難渋し手術死亡率は1.9%程度ありますが、動脈瘤は消失し人工血管の耐久性は高いので再治療の可能性は低く耐久性において信頼性が高い方法です。
- 一方EVARは手術侵襲が低く手術死亡率は0.65%で術後疼痛もほとんどありません。しかし動脈瘤を切除する訳では無いため、拡大してくる可能性が5%程度あり1年毎にCT検査での確認が必要で、拡大してくる場合には追加治療が必要となります。
ステントグラフト治療 (低侵襲手術)
ステントグラフトの種類
現在、日本で使用可能な5機種全ての実施が可能です。(指導医、実施医在籍)
動脈瘤や動脈の形態に応じた最適機種を選択し、質の高い治療を実施します。
動脈瘤や動脈の形態に応じた最適機種を選択し、質の高い治療を実施します。
ステントグラフトの素材
ステントグラフト治療は1990年代から日本でも行われるようになり、現在では多くの施設で実施可能です。私たち血管外科医は、動脈手術や血管内治療経験が豊富でステントグラフト治療のエキスパートです。
安心して手術を受けて頂けるよう日々努力を重ねています。
人工血管部分:ポリエステル、ゴアテックス
ステント部分:ニッケルチタン
ステント部分:ニッケルチタン
ステントグラフト治療は1990年代から日本でも行われるようになり、現在では多くの施設で実施可能です。私たち血管外科医は、動脈手術や血管内治療経験が豊富でステントグラフト治療のエキスパートです。
安心して手術を受けて頂けるよう日々努力を重ねています。