医学的適応による胚凍結・未受精卵子凍結・卵巣組織凍結について
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妊孕性温存療法
近年悪性腫瘍の治療も早期発見や集学的治療、薬物療法の進歩により、原疾患を克服できた若年患者さん(がんサバイバー)が飛躍的に増加してきています。生殖年齢の若年悪性腫瘍患者さんにとって、原疾患を克服することが最重要であることは言うまでもありません。しかしながらその治療法には放射線療法や化学療法(抗がん剤治療)など、妊娠できる能力(妊孕性)を喪失してしまう可能性のある治療が多数存在することも判明してきています。
札幌厚生病院では2016年から生殖年齢にある女性悪性腫瘍患者さんが、原疾患を克服した後の人生で妊娠ができる可能性を温存することを目的に、治療前の胚凍結・未受精卵子凍結・卵巣組織凍結を行う(妊孕性温存療法)専門外来を開設しています。
具体的な方法
| 精子凍結 | 胚(受精卵)凍結 | 卵子(未受精卵)凍結 | 卵巣組織凍結 | |
|---|---|---|---|---|
| 対象年齢 | 思春期 | 思春期~45歳 | 思春期~42歳 | 0~42歳 |
| 婚姻 | 未婚、既婚 | 既婚 | 未婚 | 未婚、既婚 |
| 治療期間 | 1日 | 2~8週間 | 2~8週間 | 1~2週間 |
| 長所 | 負担が比較的少ない | 妊娠率が比較的高い | 未婚者でも可能 |
迅速な対応で治療の遅れが最小限
小児でも可能
多量の卵子を凍結できる
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| 短所 | 保存期間が長くなることが多く、毎年の更新が必要 |
配偶者が変わると利用できない
採卵のため排卵誘発剤の使用が必要
(エストロゲン上昇)
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妊娠率が比較的低い
採卵のため排卵誘発剤の使用が必要
(エストロゲン上昇)
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現時点では実験的手法にとどまる
全身麻酔、手術によるトラブルの可能性
卵巣内がん細胞が再移植される可能性
移植卵巣が生着する保証がない
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射出精子の凍結保存について
外来でお渡しした指定の容器に、ご自宅で採取した精液をいれて持参していただき、凍結・保存します。精液所見が問題なければ1回の提出で十分ですが、状況によっては何回か提出するほうがいい場合もあります。
受精卵、未受精卵の凍結保存について
年齢、卵巣機能、妊孕性温存治療に費やすことのできる期間に応じて排卵誘発剤を選択し、刺激を開始します。卵胞発育が認められれば、不妊症で行われる体外受精と同じように採卵し、胚(受精卵)もしくは未受精卵の状態で凍結・保管いたします。通常は静脈麻酔と局所麻酔を併用し、日帰り入院で行います。
がん治療が終わった後(あるいは結婚してこどもをつくることになったとき)に、凍結胚を子宮に戻す(胚移植)ことになります。
患者さんは、採卵後異常がなければ速やかに原疾患の治療に移行していただきますが、原疾患の治療の猶予がある場合は、1回目で採取できた卵子数、ご本人の希望もあわせまして、複数回採卵を行う場合があります。
卵巣組織凍結について
全身麻酔下に腹腔鏡手術で卵巣組織を採取します。入院期間は3-5日間となります。卵巣組織凍結は、現在世界的にも多く行われており、国によってはガイドラインで推奨されているところもありますが、日本では現時点では研究的、実験的手法にとどまる技術という位置づけになります
費用について
現在、妊孕性温存治療においては保険適応が認められておらず、自費診療となります。
条件がいくつかありますが、国からの助成の対象となる場合もありますので、詳細については生殖担当医師にご確認ください
妊孕性温存施設と助成制度
日本では現在生殖補助医療に関する詳細な法的規制は存在していません。日本生殖医学会の「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関するガイドライン」、日本産科婦人科学会の「医学的適応による未受精卵子および卵巣組織の採取・凍結・保存に関する見解」が基本的指針となります。日本産科婦人科学会では各医療機関からの申請をもとに厳正な審査を行い、認定施設制度を管理しています。(当院は2016年に正式に施設認定を受けています。)
2021年4月から厚生労働省は全国の妊孕性温存療法の均てん化を図るべく、助成制度を開始しました。北海道でも施設認定が行われています。認定を受けている病院で行った妊孕性温存療法に限定して助成を受けられます。
妊孕性温存認定施設は日本産科婦人科学会・厚生労働省・北海道などからの認可ライセンスを多数必要とします。現在北海道では6施設の(産)婦人科が認定を受けていて、当院もその一つです。
助成制度には施設以外にも、原疾患の対象疾患、年齢、回数など色々な条件が設定されています。また新JOFRという患者登録システムへの患者さんご自身の入力による登録も必須になります。詳細については当院がん生殖外来受診の際にご説明させていただきます。
がん生殖外来受診のお問い合わせ・ご依頼・お申込みについて
妊孕性温存治療は原則として原疾患治療が最優先であり、妊孕性温存は原疾患治療に対するリスクを最小限に抑えた範囲内での医療が求められます。このため患者さんへ事前に十分な説明と同意取得が必須となります。情報の中には原疾患に関するもの(原疾患治療遅延リスク・予定治療内容による卵巣機能障害の程度など)も含まれるため、当科担当医師と治療担当医師の正確な情報交換が必要です。患者さん本人やご家族からのお問い合わせでは、必要とする正確な医療情報が、不明確であることが多いため、正確なお答えができない場合があります。
あらかじめ治療担当医師とご相談いただき、治療担当病院から当院地域連携室へご連絡ください。(患者さん個人から直接の申し込みは受けられません。)
若年女性悪性腫瘍患者さんを治療される医師の皆様へ
ご存じのように種々のガイドラインに治療前のできるだけ早い段階で、治療による妊孕性の低下について説明し、妊孕性温存について検討する機会を持つことが明記され、義務となりつつあります。
しかしながらなかなか生殖補助医療について詳細に説明することは困難なことは確かです。
「妊孕性温存認定施設に一度説明を聞きに行ってみませんか?」の一言で構いません。お気軽にご紹介いただけると幸いです。(詳細な説明は当科で担当させていただきます。)
当院地域連携室にがん生殖外来の予約連絡を入れていただければ、随時日程設定して速やかに対応します。
関連リンク・参考文献
関連リンク
日本がん・生殖医療学会のホームページ
厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業
「小児・若年がん長期生存者に対する妊孕性のエビデンスと生殖医療ネットワーク構築に関する研究」
これからがんの治療を開始される方へのパンフレットが掲載されています
これからがんの治療を開始される方へのパンフレットが掲載されています
参考文献
- 日本癌治療学会 小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2024年版
- 日本がん・生殖医療学会 乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン2026年版
資料(動画・パンフレット等)
帯広厚生病院 第62回地域住民公開講座
日時 令和8年6月17日
講演「がん治療後の妊娠に向けて」
講演「がん治療後の妊娠に向けて」
講師 札幌厚生病院 婦人科 生殖内分泌科 中谷 真紀子
がん生殖外来パンフレット